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・妄想アーキテクチャ

 

 他人の心を読むことを恐れ、自らの心を閉ざしてしまった古明地こいし。

 無意識の境地にただずむ彼女は思う。想う。妄想する。

 誰かと笑い合える日々、姉と仲良く暮らす日常、とにかく暗いことから逃げた。

 しかし、それは叶わない。

 妄想は現実と虚無の介在であって、どんなに逃げても立ちはだかるのは闇。

 ここが幻想郷だからこそ、都合良き想いは幻であり、

 道を開くのは己の意思そのものであると古明地こいしは悟った。

  

・守矢今昔物語

 

 八坂神奈子と洩矢諏訪子は想った。

 それは先日のことである。――博麗の巫女との邂逅。

 家族の絆、その為だけに、東風谷早苗の為だけに、賽は投げられたのだ。 

 けれども神社譲渡を賭けた力比べに二人は敗れてしまった。

 決着の末、何故だか神の二柱は互いに笑う。

 力が抜けたかのように、身体を崩して笑い合ったのだ。

 ――此処に溶け込むのも悪くない。けれど家族の絆を壊すのであれば戦うのみ。

 神々は再度そう想ったのである。

 

・水面に映る華火

 

 河城にとりと犬走椛は空を見上げる。時折、水面を眺める。

 二人が観る星模様、川に散りゆく紅葉の光景は変わらない。

 この世界だけが、自分の眼で観る世界だけが、二人を結ぶ。

 水面に映る紅葉がまるで花火のように輝いている。

 二人は背を合わせて笑い合う。そして歌いだす。

 明日は祭である。その為にせせらぎの音を聴きながら歌うのである。

 

 

・旧都の灼熱地霊祭・夏

 

 星熊勇儀は酒を飲む。

 妖怪たちが踊り、駄弁る最中、愉快に微笑み一人で笑う。

 けれども、その笑みは地霊の主に、主の鴉に、猫に、

 そして無意識の彼女へと向けたものである。

 何も考えず、肴を喰らう。杯を傾ける。

 そう何も考えないのだ。考えるのは一瞬で良い。

 祭だからこそ今は何も考えるな。今は踊れ、歌え、飲め。

 此処は我々の故郷。今日は旧都の灼熱地霊祭である。

 

 

・宴の友

 

 祭は終わるも、皆は踊り続けた。酒を飲み続けた。

 けれど古明地こいしは彷徨っていた。

 闇を抱え、無意識の境地に心を閉ざしてしまった彼女は彷徨っていた。

 彼女は偶然にも博麗神社の下に辿り付く。

 古明地こいしは二人の鬼が杯を合わせ、笑い合う光景を目にする。

 「あんな風に笑い合いながら、楽しむことが出来たなら」

 宿望の一抹に瞳がうっすらと開いてしまう。

 無意識を常とした彼女の心が一瞬だけ揺れ動いてしまった。

 

 鬼達は気付く。他者の感知を受けない古明地こいしの姿が映る。

 

 手をのばす。理由など聞かず、伊吹萃香と星熊勇儀は酒の席へ彼女を誘う。

 「飲め」と、それだけの一言だけを述べて、高らかに歌いながら酒を飲む。

 酒がまわり始め、古明地こいしの無意識が解ける。

 伊吹萃香は口を開いた。「酒の友は、また明日も友」

 彼女は再び悟った。『道を開くのは己の意思そのものである』と。

 笑う。いつまでも笑う。無意識を忘れてしまうほどに。

 宴の友から始まった今日の出会いを糧にして、閉じた道を開いていくことを。

 古明地こいしは決意した。

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